第1話 海
鵠沼海岸 2017年9月
気が付いたら134号線を海岸に向かって歩いていた。場違いな服装。ハイヒールで来たことを後悔しながら潮の匂いと風を胸いっぱい吸い込む。
子供の頃からそうだった。辛いことがあるといつも海に来ていた。海風をうけて気持ちよさそうに旋回する鳥たちを見て、うらやましいと思っていた。
鵠沼の海岸は、海水浴シーズンが終わったにもかかわらずテントがはられ、サーファーたちは制限区域がなくなりのびのびと波に乗っている。そして、あの人を思いだす。思い出すというよりは蘇る。今にもボードを抱えて笑顔で海からあがってきそうだ。
「あなたがサーフィンしているのを見ているのが人生で最高に幸せな時間だった」
もちろん既読にはならない。
満足のいくまで波音と潮風を体にとりこみ、靴擦れした足で家路につく。