第3話 告白

「実は結婚することが決まっているんです。このままではいけないと思い伝えます。」

私は由緒正しい家柄の男性との結婚が決まっていた。すべてが順調で幸せ絶頂期のはずだった。

「わかりました。これ以上会っているともっと好きになってしまうのでもう会わない。」

この時代になぜか文通でのやりとり。夜勤明けで帰宅する彼の後ろ姿が窓から見えた瞬間、たまらなくなった。もう自分を止められなかった。

人生で初めてのずる休み。すぐに追いかけた。夢中だった。失いたくないと思った。

 

気づいたらやはり海にいた。海に会いに行くときは、子供の頃からいつも一人だった。誰かと一緒に行きたいとは一度も思ったことがなかった。でも今は出会って間もない男が隣にいる。

「俺と結婚しよう」

「・・・」

「考えさせて、今の状況じゃ何も言えない」

「じゃあどうしたいの、彼氏と別れるの?」

「・・・」

今まで自分の意思を通して行動してこなかった私は、導いてくれるものがないと判断できない大人になってしまっていた。どうしたいかわからない。ただこの人と一緒にいたい。誰も教えてくれない、私がどうしたらいいのか。

 

第2話 出会い

私たちはお互い子供を望まないDINKSだった。彼がセクシャルマイノリティーであることは関係ない。

名古屋 2008年6月

「おさげもお似合いですね」ただエクステを巻く時間がなくて二つ結びにしていただけ。だいたいおさげじゃないし。「褒められているように聞こえないんですけど」

それが彼との初めての会話だった。同じ職場だが話したことはなく、名前を知っている程度の存在だった。ただ、その瞬間、今までに感じたことのない衝撃が走った。人生ではじめての感覚だった。

何の不自由もなく育ち、優等生でしっかり者。親の期待に応えたい、褒められたい。何をするときも常にそれを優先して生きてきた。

そんな私にとって彼の存在は眩しくて魅力的だった。お互い好きになるまでに時間はかからなかった。

 

第1話 海

鵠沼海岸 2017年9月

気が付いたら134号線を海岸に向かって歩いていた。場違いな服装。ハイヒールで来たことを後悔しながら潮の匂いと風を胸いっぱい吸い込む。

子供の頃からそうだった。辛いことがあるといつも海に来ていた。海風をうけて気持ちよさそうに旋回する鳥たちを見て、うらやましいと思っていた。

鵠沼の海岸は、海水浴シーズンが終わったにもかかわらずテントがはられ、サーファーたちは制限区域がなくなりのびのびと波に乗っている。そして、あの人を思いだす。思い出すというよりは蘇る。今にもボードを抱えて笑顔で海からあがってきそうだ。

「あなたがサーフィンしているのを見ているのが人生で最高に幸せな時間だった」

もちろん既読にはならない。

満足のいくまで波音と潮風を体にとりこみ、靴擦れした足で家路につく。